ドイツ、フランスを視察


 091018日(日)から25日(日)まで、公職研が行う「地方公務員のための職員研修・海外派遣」事業の一つである「欧州都市計画・低炭素なまちづくり調査団(ドイツ・フランス)」に参加した。参加者は私を含め5名であったが、同じ日程で他の調査団(2名)と同行したため、7名で団を構成することとなった。

 出発日の成田空港で初顔合わせとなった調査団の面々は、50才代前半の東京都下の市公園緑地課長、30才代前半から後半にかけて宮崎県の農業青年、大分県の市都市計画課職員、静岡県の市農業振興課職員、大阪府第3センター職員、石川県都市計画課職員の6名と私の7名であった。

 初顔合わせ時に団長・副団長を選ぶこととなり、最年長者(61才の私)を団長に、最年少者を副団長とすることが決められた。一団員として視察に参加すればいいのだろうと思っていた私は、この時から1025日(日)の帰着日まで、この視察団の団長を務めることになった。

 それからの一週間、至らぬ団長を支えていただいた団員各位の皆様と添乗員に心から感謝を申し上げます。

 (2009年11月6日掲載)


欧州都市計画・低炭素なまちづくり調査団(ドイツ・フランス)報告書

長崎市議会議員 田中 洋一

 

1. 視察の目的

   【ドイツ】 

  ・歩行者優先のトランジットモール建設による低炭素なまちづくりと中心市街地活性化の両立

  ・広域行政体による公共交通政策の推進と人が集まるまちづくり

  ・CO2排出量削減のための市民参加型環境政策の推進と環境先進都市構築の経緯と概要

 【フランス】

  ・電気自動車・プラグインハイブリッド車導入促進による低炭素なまちづくり

  ・都市部過密穏和のための副都心の形成と都市デザイン

  

2.視察都市

   ドイツ:ダルムシュタット,マンハイム,ハイデルベルグ

   フランス:パリ,マラコ

 

3.視察期間

   20091018日(日)〜1025日(日) ≪8日間≫

 

4.視察内容

 1)ドイツ・ダルムシュタットを視察(101910001220

《調査テーマ》

 ●都市計画制度の概要と大型ショッピングモールの中心市街地への誘致

 ●中心市街地における歩行者中心のトランジットモール建設の概要

 ●低炭素なまちづくりへの取組

  ドイツは先進的な都市計画制度のモデルといわれており、その中で30年前に旧市街地の再整備が計画され、現在に至っても新たな計画が継続しているダルムシュタット市(142千人)の都市計画について、「調査テーマ」に基き調査を行った。

 ドイツでも1960年代以降、大規模小売店が郊外に進出しはじめ、旧市街地の商店街の衰退が社会問題となった。ダルムシュタットのケースは、郊外に進出を図ろうとする大規模小売店を逆に旧市街地に誘致し活性化に成功した ものである。

 <第1次整備:ルイーゼン広場及びルイーゼン・センターの計画>

 1970年代初め、郊外に65,000uという大規模小売店計画が持ち上がった。この規模は当時、市の中心部にあった4つの中型百貨店の売り場面積を合わせてもこの規模には満たないという大きさで、この計画が実現すれば商店街の衰退は目に見えていた。

 計画を知った市都市計画局は、市議会の協力をえて旧市街地のルイーゼン広場に面した土地の売却を条件に、大規模小売店を郊外から市街地へ誘致した。

 市はこの誘致に合わせてルイーゼン広場周辺の大改造を行っている。旧市街地を縦断していた市道をトンネル化し、東西に通る国道を迂回させることで、ルイーゼン広場を中心とする一帯は自動車が締め出され、公共交通機関のみが運行するトランジットモール化され、巨大地下駐車場を併設する歩行者天国となった。

  当日は大変寒く、霜が降りていた

 建築物としては、広場に面する側に地元商店街の店舗等を入居させるためのルイーゼン・センターが建設され、その並びに誘致した大規模小売店舗が建設されている。これらの建物は互いに接続し一体的に利用されている。(竣工:1977年)

 
     ルイーゼン広場      ルイーゼンセンターでの調査

<第2次整備:「カレー」ブロックの計画>

 第一次整備から20年後の19974月、ルイーゼン・センターに隣り合わせた「カレー」ブロックが竣工した。これは市街地に残された電力会社の古い赤レンガ造りの建物を保存するため、改修して文化施設として利用しながら、商店街の売り場面積を拡張し、ルイーゼン・センターとの調和をはかる目的で実施されたもので、売り場面積はルイーゼン・センターのほぼ1/3、同時に350台分の地下駐車場が新たに整備されている。

 
 説明するGmbHのAnke Jansenさん        調査団と現地関係者

<第3次整備:「ブルーバー」ブロック計画>

 「ブルーバー」ブロックは2006年に竣工した。

  第1次から第3次の整備に大きな役割を果たしたのが「ダルムシュタットマーケティング」GmbHでる。(「GmbH」とは日本語でいう「有限会社」と同義語)これは市の外郭組織であり、運営は商店街組合の組合員からの会費と市からの補助金で賄われている。 

 今回の視察で感じるのは、ドイツでは、個人の権利や企業の利潤よりも公共の利益やそこに住んでいる住民の意志が優先されていることである。住民自身のまちづくりに対する関心が高く、住民の代表である議会が機能していることと、それを可能にする法制度が整備されていることによると考えられる。

 

2)ドイツ・マンハイム:ライン・ネッカー運輸共同体視察(102010001200

《調査テーマ》

 ●広域的な公共交通政策の推進と広域交通網の運営管理

 ●広域交通網の利用実績の推移と地域の活性化

 ●利用しやすい交通機関の整備と地方自治体の役割

 
    マンハイムの路面電車        視察を行う田中洋一

 マンハイム市(人口32万人)にある ライン・ネッカー運輸共同体GmbH (VRN)は、3つの州80キロ圏域の24の自治体が一緒になって目的連盟的な有限会社をつくり、鉄道、路面電車、バスなど公共交通を一元的に管理・運営を行っている。路線数は460ルート、7,660駅で、各々の路線の運行は民間や市の交通局など60の業者が入札の上で運行している。60の事業者は収入の4%をVRNに支払うことでVRNの運営が行われている。各路線で赤字が出た場合、自治体が事業者に補てんする仕組みとなっている。

 
     視察終了後御礼の握手        列車整備工場を視察

 料金は1回のみの乗車券や1日乗車券(24時間)、回数券など様々だが、1日乗車券は5.2ユーロ(約730円)で、これで24時間、80キロ圏内の鉄道、路面電車、バスに何回でも乗れることを考えると大変使い易くて便利な公共交通機関といえる。

 
     マンハイム駅時刻表    1日乗車券(VRN券と有料券5,2ユーロ)

 

3)ドイツ・ハイデルベルグ視察(102110001230

《調査テーマ》

 ●市民参加型アクションプログラムの概要と実績

 ●環境先進都市建設の経緯と概要

 ●CO2排出量削減のための取組と行政関連施設の状況、再生可能エネルギー導入対策、住宅・建物などの熱対策

  ハイデルベルグ市はフランクフルトの南方約100qに位置し、ドイツで最も古いハイデルベルグ大学のある大学町である。また1996年のドイツ環境コンテストで優勝した環境先進都市でもある。

 人口約14万人のうち3万人が学生である同市は、大学が最大の雇用の場となっており、次いで各種研究所の雇用割合が大きい。(研究・開発とサービス業に就労しているのが75%、生産業への就労が25%の割合となっている)

 歴史のある古い街並や古城もあり年間300万人の観光客があり、経済収入の1015%が観光収入である。

 ハイデルベルグ市環境保全局を訪ねるとドクター(博士号)の称号を持つハンス・ボイス・シルクビッチ(Dr. Hans-Wolf Zirkwitz)局長が市の取組について説明をしてくれた。

 
    視察受入御礼の挨拶        記念品を手渡し握手

 【多様なセクターを巻き込んで地球温暖化防止対策を実施】

  ハイデルベルグ市の気候政策の構造的な枠組は、1992年と2004年に策定された地球温暖化防止対策プログラムにおいて計画されている。企業や環境保護団体、手工業者、建築業者、大学、ハイデルベルグ市の代表からなるハイデルベルグ円卓会議「地球温暖化防止対策とエネルギー」は、年に2回開催され、ハイデルベルグ市の方針を検討し、新しいプロジェクトを策定している。2004年の円卓会議では、ハイデルベルグ地球温暖化防止対策プログラムと建築物のエネルギー需要を定めたハイデルベルグ基準が開発された。

 1995年以降、環境局ではEチームプロジェクトを実施している。これは、若者世代にエネルギーや環境の概念を紹介し、省エネルギーとCO2排出の回避を促し、校舎を適正に使用することにより、自治体の予算負担の軽減を目指すものである。現在、19校が参加しており、そのうち3校が環境管理・環境監査規則(EMAS)を取得し、校内における環境マネジメントシステムを確立している。また、太陽光発電設備と太陽熱温水設備が、環境局により数多くの学校に導入されており、学校ではこれらを授業に取り入れ、ソーラーエネルギーの利用を実施している。

 さらに新しいプロジェクトとして、スポーツ環境チームがスタート。ここでは、スポーツ団体が所有する施設に導入されている技術を改善し、メンバーの環境意識を高めることを目指している。

     視察が終わり全員で記念撮影

 

4)フランス・パリ ・デファンス再開発地区視察(1022日午後)

《調査事項》

●都市過密緩和のための副都心の形成と都市デザイン

 デファンス地区は、中世の時代パリを守るためパリ市郊外にトリデを築いたことから名付けられたとのことだが、現在はフランス国家を守る役割を果たしているのではないかと思えた。古都パリではその景観を守るため、近代的な高層ビルの建設が禁じられており、企業は昔からの建物の中で企業活動を行っている。しかし企業のIT化が進めば進む程、古いビルでは対応しきれなくなることから、トリデの役割を終えたデファンス地区に近代的な高層ビルを建築し、そこで業務を行うようになった。当初はビル入居企業は少なかったらしいが、今では巨大ビルが乱立し、企業活動の中心として脚光を浴びるようになった。

 
     凱旋門を模した建物    デファンス地区からパリ凱旋門を見る

 

5)フランス・マラコフ市 視察(102314301700

《調査事項》

 ●電気自動車・プラグインハイブリッド車の導入促進による低炭素なまちづくり

 ●地方自治体による充電設備等インフラ整備の概要と民間との連携

 

 マラコフ市では市事務総長(市長に当る)Michel CIBOTさんと、オートリブ協会副会長をつとめる市議会議員Pierre AVRILさんの出席のもとで視察研修を行った。AVRILさんは議員であり、非常勤の委員として道路政策、交通政策全般について担当しているとの説明であった。

 私はAVRILさんの説明を聞くまで、調査項目にあるようなものが実際に運用されているものと思っていたし、電気自動車は私有物として個人が所有しているものと考えていた。しかし、オートリブ協会は発足から3週間しか経てなく、車の購入も今からとのことだったので、導入に至る背景やオートリブの考え方を中心に報告を行う。

 
 説明するAVRIL氏(右:中央が市長)       説明を聞く調査視察団

【導入に至った背景について】

 パリでは2年前から交通渋滞の解消策として市営貸し出し自転車・ヴェリーブ(ヴェロ=「自転車の話し言葉」とリーブル=「自由」を合成した言葉でパリ市の貸し出し自転車の愛称)が誕生し、成功を収めている。この成功の結果、パリ市は周辺自治体30都市を ヴェリーブの中に入れ、自転車の利用範囲(距離)を広げている。

 この成功を受け、環境問題への関心も高まる中、パリ市は新たに貸し出し電気自動車(オートリブ)の導入を行うこととなり、パリ市プラス26の自治体が参加し、オートリブ協会を立ち上げた。

 貸し出し電気自動車導入のもう一つの背景は、車の使い方が変わってきていることにある。公共交通の充実で自家用車は日頃は使わず時々使うため、車を持つことは大きなムダ、という考え方が広がっていることだ。AVRILさんは貸し出し電気自動車のことを「運転手のいないタクシーと考えてもらえばいい」と言い、「マイカーの時代からパブリックカーという時代がくる」、「ケーススタディで45000台位パリ市内で車が減るだろう」とも言った。そしてオートリブ政策は「万人が使える」「ムダをなくす」「地球環境保全」という大きな軸を持っている、と強調した。 

    視察終了後お礼の握手

 いいことづくめのオートリブ政策だが解決しなければならない課題は多いし、本当にうまくいくのだろうか、との思いが強く残った。そうした雰囲気を察してかAVRILさんは最後にこう言った。「イメージが実現するのは10年後だと思うが、いま取り組まなければ10年先はない」。こうした思いをもって先人は現代を築いてきたのだろう。オートリブ政策の成功を心から願いたい。 

   話は変わるが、視察団調査に同席したMichel CIBOT市事務総長が会議終了後に私のところに親しく話しかけてこられ、「今年8月長崎市で開催された世界平和市長会議に私も出席した。田上市長にもぜひよろしくお伝えいただきたい」とのことだった。団長として会議の冒頭、視察受入れの御礼と視察目的を伝えるためあいさつを行った時、長崎市議と自己紹介したことから、最後に声をかけていただいたもので、長崎市の 平和への取り組みが世界に広がっていることを改めて思った。

 

 

5.おわりに

 今回の視察はメンバーにも恵まれ、多くのことを学ぶことができたが、旅行期間中に見聞したことを通じてドイツやフランスの国民性の一端を垣間見た気がするので触れておきたい。

 ドイツを訪問した初日に通訳から聞いた出勤途中の出来事である。その日は大変寒く朝は霜が降りていたが、通訳が乗った列車の車輪にも氷がつき、列車はスリップのため1両目がホームをはみ出してしまったという。そのため運転手は車両のドアを開けずそのまま次の駅へと向かい、車内放送で「1両目の車両がホームを通過したためこの駅では降りられません。この駅に降り る人は次の駅で降りて車両を乗り換え戻ってください」と説明があったという。そしてこの説明に対して誰も何も言わなかったという。日本では絶対にありえないことだし、大 騒動になっていたことだろう。

 また、ダルムシュタットでのショッピングセンター視察の折、つい最近郊外に大型ショッピングセンターができ、駐車場に入るのに30分待ちの盛況を呈していることに係わり、ルイーゼンやカレーショッピングセンターは顧客が流れる不安はないのかとの質問に、売り場責任者は「ものめずらしさで30分待ちの状況になっているのだと思う。そのうち30分も待つようなところにはいかなくなる」と悠然としていた。自信の表れだろうが、日本の場合売り場責任者は「こうした手を打っている」と危機感をあらわに説明することだろう。

 フランス・マラコフ市での視察で、オートリブの副会長は「軌道に乗るのに10年かかると思うが、今取り組まなければ10年先はない」といった。彼は議員で、次の選挙では逆に足かせになるかもしれないオートリブに全力で取り組んでいる姿に、個人よりも公共の利益を優先させるフランス人気質の一端を見た気がする。


【日程表】

月 日

都 市 名

交通機関

時 刻

 ス ケ ジ ュ ー ル

2009/10/18

(日)

 

成田空港集合

成田発

フランクフルト着

 

航空機

専用バス

10:30

13:00

夕刻

成田空港第2ターミナル集合

空路、フランクフルトへ

着後、ホテルへ(フランクフルト泊)

2009/10/19

(月)

フランクフルト

ダルムシュタット

フランクフルト

専用バス 午前

午後

専用バスにて、ダルムシュタットへ

ダルムシュタット市都市計画局訪問

終了後フランクフルトへ(フランクフルト泊)

2009/10/20

(火)

フランクフルト発

マンハイム

ハイデルベルグ着

専用バス 午前 専用バスにて、マンハイムへ

ライン・ネッカー運輸共同体訪問

終了後、ハイデルベルグへ(ハイデルベルグ泊)

2009/10/21

(水)

ハイデルベルグ 専用バス 午前  

ハイデルベルグ市環境保全局訪問

(ハイデルベルグ泊)

2009/10/22

(木)

ハイデルベルグ発

マンハイム経由

パリ東駅着

列車 午前

午後

マンハイム経由パリへ

パリ市内調査

(パリ泊)

2009/10/23

(金)

パリ

マラコフ

パリ

専用バス 終日 専用バスにて、マラコフ市へ

マラコフ市都市環境関連部局訪問

(パリ泊)

2009/10/24

(土)

パリ滞在

パリ発

 

航空機

 

19;20

出発まで自由調査

空路、成田空港へ

2009/10/25

(日)

成田着   14:10 入国手続き終了後、解散

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